
あの夜のあと、
また彼女は、家に来るようになった。
前よりも距離は近くて、
関係は、少しだけ良くなった気がしていた。
そんなある日、
彼女が言った。
「職場、異動になったんだよね」
社員寮を出ないといけないらしい。
「引っ越し大変だね」
そう返したあと——
少し間があって、
彼女は言った。
「もうこの家に住むわーー!!」
その言葉を聞いた瞬間、
ふと、前のことを思い出した。
連絡が取れなくなる前。
あの時も、似たようなことを言っていた。
でも結局、
あの時は——いなくなった。
だから今回も、
冗談だと思った。
なので僕は
「いいよー!」
軽く、そう返した。
一人でいるのも寂しかったし、
少し弱っていたのもあったと思う。
でもそれ以上に、
“適当なこといってるな”って、
どこかで決めつけていた。
数日後。
玄関のドアが開いた瞬間、
その認識は、崩れた。
彼女の後ろにあったのは、
明らかに多すぎる荷物。
キャリーケースに、大きなバッグ、
そして段ボール。
一泊とか、そういう量じゃない。
「ほら、ちゃんと持ってきたでしょ!」
そう言って、
彼女は少し笑った。
まるで、
信じてもらえないことを
最初から分かっていたみたいに。
その瞬間、
あの時の言葉と、
今の光景が繋がった。
——これは、冗談じゃない。
いや、
最初からずっと、
冗談じゃなかったのかもしれない。


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